白い花びらは花ではない
ドクダミからだいぶそれた。ドクダミは学名をHouttuynia cordataといい、ドクダミ科Saururaceaeに属する。(1.)牧野富太郎の古典(2.)を見ると、その頃はハンゲショウ科と呼んでいた。種小名のcordataとは、ラテン語で心臓の形の意味。葉っぱの形が心臓の形を連想するのだろう。
cordisが心臓。aが語尾についているので、女性形に変わったのかと考え「花」を調べるも意外にも男性形。ラテン語の詳しい友人に後で聞こう。このファミリーは日本には2属しかない。世界的に見ても4属5種。このファミリー自体、ヨーロッパになく、日本の雑草が向こうの植物園では非常に珍しがって大切に栽培されているらしい。もうひとつの種がハンゲショウ(半夏生)である。ドクダミは県内どこでも普通にあるようだが、ハンゲショウは県北にいくと稀になる(3.)らしいから、もともと暖かい地域の植物なのだろう。茨城県が分布の北限、または南限になっている植物は数多い。ちょうどこのあたりが「落葉広葉樹林帯」と「照葉樹林帯」の水平分布の境目にあたると昔学校で習った。ドクダミの白い花びらは花ではなくて葉っぱで「苞(ほう)」と呼ぶ。
岩波の生物学事典を開くと「一般に総苞片の腋からは花または芽を生じない。」ということで「苞」と呼ぶことは適切でないらしい。
どんな野草も天ぷらにしてしまうと「アクが全部油にでてしまう」ので食べ易い、と20年前に友人に教わった。U大のM先生の部屋の方だったからでもないが、容易に信じた。
葉っぱは天ぷらにして実際に食べたことがあるが、臭気は全くなくなりドクダミと言われてもわからない。
自分の庭から採集したものなら、さほど心配せず食べられる。養生訓の貝原益軒が大和本草(5.)のなかで「駿州甲州ノ山中ノ村民ドクダミノ根ヲホリ飯ノ上ニオキムシテ食ス味甘シト云」と記している。蒸すと甘くなる根は、食べることができるらしい。
この本ではドクダミの別名「十薬」について「馬に食べされると十の効能がある」とあり、多くの本で読む、人への薬効は元禄時代は認識されていなかったのか、フォークロアの誤解なのか。
参考
1. 佐竹義輔ほか編 (1982)
日本の野生植物 草本2 離弁花類 平凡社
2. 牧野富太郎 (1949) 植物知識
郵政省通信教育振興会
3. 鈴木昌友監修 (1984)
茨城の野草 春〜初夏編 茨城新聞社
4. 八杉龍一ほか編纂 (1996)
岩波生物学事典 第4版
5. 貝原益軒 (1709)
大和本草 巻之九、草之五 雑草類
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